ベッドから起き上がって支度をする私をリディアちゃんが心配そうに覗き込みます。
彼女いわく私はほぼ丸一日寝てしまったらしく、今はもう夕方になってしまったそうです。
しかし食料も残り少ないし、いつまでもこの洞窟に居るわけにも行かないのですぐに出発することにします。
そして私の体の具合はというと・・・驚くことに大分良くなりました!
頭痛や皮膚のさすような痛みも治まり、ほぼ全快といっていいくらいです!
強いて言うなら、胸の奥で何かがざわつくような奇妙な感じがするくらいでしょうか。
とにかく大分体は動くようになったのですぐに出発です!
あちゃ~。
外に出ると、確かにもう夕方になってしまっています。
きれいな満月が顔を出し、あたりはまだ明るい状態でした。
しかし、これなら大丈夫と、森を進んでいるうちにだんだんと胸の中のざわつきが
大きくなっていることに気がつきます。
このざわつきは何なのかしら、と空を見上げたそのときでした。
空に浮かぶ2つの満月が目に入ると同時に
体が激しく脈動し、体の中から何かがこみ上げてくるような感覚に襲われます。
具合が悪かったときとは比べ物にならないくらい全身が痛み、
意識が朦朧とし始めました。
そして・・・
ついに私の体に変化が訪れたのです。
皮膚が裂けるような感覚、驚くほどまで低い自分のうなり声。
私は理性の大半を失い、空を見上げて獣の声で叫びます。
私の肉体は・・・ウェアウルフへと変わってしまっていました。
私の変貌に悲鳴を上げてリディアちゃんが駆け寄ってきます。
そして、それがトリガーになりました。
(来ちゃだめ!!)
わずかに残った理性のうちで叫ぶも、体は勝手に動きました。
私はリディアちゃんに飛び掛り、その体を鋭く生えた爪で引き裂いて
その体を軽々と殴り飛ばします。
これ以上はイケナイ・・・そう思った私は何とかそこで攻撃を中断し
すぐにその場から逃げ出しました。
何とかまだ理性が残っていてよかった・・・。
その思いを最後に私の理性はすべて吹き飛び、身も心も
完全に・・・ウェアウルフへと変わってしまいました――。
チ・・・ニク・・・エモノ・・・。
もうそれしか頭になくなった私は、雪の降る草原を走り抜けます。
眼下に見下ろすはドラゴンブリッジ・・・。
ココならたくさんのエモノがいる。
しかしここはイケナイ・・・他所へ行こう。
アノ・・テント・・ナラ・・・
ココモ・・・イナイ。
そう思って他所へ行こうとしたそのときでした。
哀れにも盗賊が理性を失った私へと近づいてきます。
私は彼が何か言う前にその体に飛び掛り、爪を立てて引き裂きました。
私が腕を振るうたびに、嫌な音とともに彼はぼろ雑巾のようになって吹っ飛び
地面をすべるように転がると、そのまま動かなくなりました。
ニク・・・エモノ・・・。
もうそれしか頭にない私は涎をたらしながらその肉塊に近づくと
牙を立ててむさぼりつきます。
バキバキと骨が砕ける音、そして飛び散る血しぶきも構わずに・・・。
こうなってしまうともはやただの獣。
なんらその辺のモンスターと変わりありません。
血肉を味わい興奮した私は、さらに雨の降りしきる野を駆けて
盗賊たちの住む集落を見つけると、
全員残さず食らうために有無を言わさず彼らに襲い掛かります。
当然彼らも応戦はしてきますがこんな化け物に一体どうやって勝つというのでしょうか・・・。
例外なく肉塊になった彼らにしゃぶりつき、食い散らかします。
モウ・・・イナイカ・・・。
あたり一面血の海になった集落を見渡して舌なめずりをすると同時に
再びあの時と同じ感覚にさいなまれ始めました。
獣の血から解放され、びっしりと覆っていた体毛が消えていくと、
私は意識もおぼろげにふらついて、膝をつきます。
理性を取り戻した私の目に飛び込んできたのは
血の海とその周辺に散らばるヒトであった物でした。
うそ・・・わた・・・し・・・。
雨が降りしきる中、私はただただ立ち尽くします。
モウ何も考えたくない・・・。
私はそれだけを思うとベッドに倒れこみ、そのまま意識を失いました。
今日はこれでおしまい。
次回は一旦自宅まで戻ります。